旭川地方裁判所 昭和29年(行)1号・昭29年(行)2号 判決
原告 国崎広隆
被告 留萌市議会
一、主 文
被告議会が原告に対してした左記議決はいずれも取消す。
(一) 昭和二十九年二月十三日なした「陳謝をしない限り会議の都度その頭初において陳謝するまで退場を求める」との議決。
(二) 同年五月二十二日なした原告を除名するとの議決。
原告のその余の請求は棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告が原告に対し昭和二十九年一月二十日にした公開の議場における陳謝という議決を取消すとの判決及び主文第一項第三項同旨の判決を求め、その請求原因として、原告は昭和二六年四月以来被告議会の議員であるところ、
一、被告議会は昭和二十九年一月二十日の会議において原告に対し原告は元町排水溝の工事施行に当つて不正行為があつたとして、「公開の議場における陳謝」という懲罰の議決をしたのであるが原告は同工事の施行につき何等不正の行為はなかつた。仮に不正の行為があつたとしても、それは地方自治法及び被告議会の会議規則に違反したものではないので懲罰の対象とはならない。従つて右議決は違法である。
二、原告が右議決による陳謝をしなかつたところ、更に被告議会は同年二月十三日の会議において、原告に対し、「右陳謝をしない限りは会議の都度その頭初において陳謝するまで退場を求める。」という議決をした。同議決は実質的には懲罰の一種であるが地方自治法に規定する懲罰の種類に入らない違法のものである。
三、又被告議会は同年五月二十二日の会議において議長より原告に対し前記の陳謝を求め、原告がこれを拒絶したところ更に退場を求め、これをも拒否したところ遂に原告を懲罰に附し、即日原告を除名するという議決をしたのであるが、右(一)、(二)の議決が違法である以上これを強要しこれに応じなかつたことを理由としてした右除名の議決も不法である。
以上の如く右各議決は、いずれも違法であるからこれが取消を求めると述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は「原告の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告がその主張の如く被告議会の議員であること、その主張の如く昭和二十九年一月二十日、同年二月十三日及び同年五月二十二日議決をしたことはいずれも認めるが、同議決は総て違法ではないと答へ、抗弁として、(一)被告議会は昭和二十八年七月二十五日臨時市議会を開会し、留萌市内の災害による排水溝等改修工事の対策について審議し、同日災害対策特別委員会が設置せられ、原告は同特別委員会の委員長に選任された。(二)原告は留萌市において土管類の製造販売業をしているので右委員長になつたのを奇貨として、所謂元町排水溝の改修工事用の土管等を留萌市に売込むことを企図し、担当の市吏員及び市長を強圧して不正品を同市に納入した。そのため右工事が容易に完成せず同市に甚だしき損害を与えた。(三)そこで被告議会は調査委員会を設けて調査の結果、原告に右不正不当な事実があり懲罰に値すると認めたので、原告主張のように順次三回に渉つて懲罰の議決をしたのである。(四)なお原告の右行動は議会外のものであるが、これがため被告議会の品位を傷つけ権威を失ついせしめたものであるから懲罰の理由となるものである。又昭和二十九年五月二十二日の会議においては、議長がさきの議決に基いて原告に陳謝を要求したところ、原告はこれを拒否し、議長の制止を無視して発言したので議長の憤りをかい議場を混乱に陥れしめた。そこで議長は議場のちつ序を乱すものと認めて原告に退場を命じたが、原告は退場せず一層反げき的言動に出たため遂に除名の議決をしたのである。
以上要するに被告議会がなした原告に対する本件懲罰の議決はいずれも正当なものであると陳述した。(立証省略)
三、理 由
原告が昭和二十六年四月以来被告議会の議員であること、被告議会が昭和二十九年一月二十日、同年二月十三日及び同年五月二十二日の三回にいずれも原告主張の如き理由により、その主張の如く懲罰の議決をしたことは当事者間に争がない。原告は、右議決はいずれも違法であると主張するのでこの点について判断する。
(一) まず被告議会は昭和二十九年一月二十日原告に対し、原告は留萌市元町排水溝の工事施行に当つて不正行為があつたとして「公開の議場における陳謝」という懲罰の議決をしたというのであるが、仮に原告に被告主張のような不正行為があつたとしても、その行為は議場外における議員の職務外の個人的非行であるから、これにより直接議会の品位又は権威を失ついせしめたものとは謂い難く、かような個人的非行については地方自治法に基く懲罰を科することはできないものと解するを相当とする。従つて被告議会が原告に対してした右陳謝を求める議決は違法であると謂わなければならない。もつとも右議決が仮に有効であるとしても、かかる陳謝は当該会議の会期中になすべきものであるところ、成立に争のない乙第五号証の一乃至四によると、右会期は昭和二十九年第一回臨時会議である同年一月十八日より同月二十二日までゞあつたことが認められ、従て已にその会期終了により右議決は効力を失つたものである。さすればその議決の取消を求める原告の本訴請求は所謂訴の利益がないので、その請求は理由がないものと謂わざるを得ない。
(二) 次に被告議会は同年二月十三日「右陳謝をしない限り会議の都度その頭初において陳謝するまで退場を求める」旨の議決をしたというのであるから、これは原告に出席停止を命じた懲罰と解される。ところで地方自治法第一三五条の出席停止の処分は当該会議の会期中における一定期間に限り出席停止を命ずることを得るものと解すべきであるから、たとえ原告に対し出席停止を命じ得る理由があつたとしても、右被告議会のした会期の次の会期における出席までも停止する旨の議決は違法たるを免れない。
(三) 更に被告議会は同年五月二十二日原告が前記の陳謝をしないことを理由として除名の議決をしたというのであるが、前述の如く被告議会がした原告に対する陳謝要求の議決は違法であり、なお右会期の終了後当然効力を失つたので、その議決に服しなかつたことを理由としてした右除名の議決もまた違法であることは明らかである。
被告は、当日原告が議長の陳謝及び退場の要求に応せず議場を混乱に陥れたのでこれをも理由として除名の議決をした旨主張するが、その陳謝要求が違法である以上これが拒絶に基く退場の要求も不当であり、これを強要した結果議場が混乱したとしても原告にその全責任ありとは謂い難く、この点を理由としてした除名の議決は著しく過酷であり違法であることを免れないと謂わなければならない。なお、被告議会の会議規則には懲罰に関する特段の規定はない。
以上の理由により原告の本訴請求は前掲(一)の陳謝の議決の取消を求める部分は失当であるから棄却し、その他の請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 藤田和夫 市川通雄 神田鉱三)